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ガラス平面研磨技術の歴史を徹底解説!経済大国日本を支えた研磨技術

株式会社斉藤光学製作所は、ホームページにもあるように、1977年に埼玉県上福岡市(現在のふじみ野市)で腕時計のカバーガラスの成形・研磨加工を主事業として創業しました。

創業時から蓄積されたガラス基板研磨技術により高品位・高平坦両面加工を実現し、ガラス研磨に関する技術開発支援を行っています。

現在は、SiCやGaN、LT/LNなどの半導体基板の研磨を得意とする結晶事業部とガラス事業部に分かれており、ガラス事業部が得意とする平行平面研磨は、光学部品、測量機器、医療等の各分野に広く製品を提供しています(上図)。

今回は、私たちの仕事そのものとも言える「ガラス平面研磨」の歴史を、技術の転換点にフォーカスして振り返ります。

河田 研治
監修者:河田 研治

株式会社斉藤光学製作所技術顧問。専門が「研磨加工」と「微粒子分散」の技術コンサルタント。1976年、東北大学工学部を卒業後にタイホー工業株式会社 中央研究所にて磁性流体や研磨加工の研究に従事。1987年、東京大学より工学博士号(機械工学)を授与。2001年から3年間、東京大学生産技術研究所の客員教授。その後10年間は、研磨材メーカーの株式会社フジミインコーポレーテッド。さらにその後10年間は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 招聘研究員だった。

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ガラス平面研磨の用途の変遷と要求精度の変化

ガラスの平面研磨は、いつの時代も「まず使い道があり、そこに求められる精度の高さが技術を成長させてきた」という歴史があります。
ここでは、ガラス平面研磨の歴史を、用途の変遷とそれに伴う要求精度の変化という視点から整理しましょう。
表1には、ガラス平面研磨の主用途や要求精度を年代ごとに示しました。

時代主用途平坦度要求表面粗さ要求技術的意味合い
〜19世紀中頃建築•鏡mm〜100μmμmオーダー見た目品質。歪みが目立たないこと
19世紀後半初期光学(望遠鏡等)10〜1μm100〜50nm光学性能が研磨で決まる
20世紀前半精密光学1μm〜0.1μm50〜20nm面精度=性能。再現性が課題
1950年代~フロートガラス後加工数μm以下20〜10nm成形+仕上げ分業化
1980年代~フラットパネルディスプレイ1μm以下10〜5nm大面積✕均一性
1990年代~フォトマスク100〜50nm1〜0.5nm欠陥・トポグラフィ管理
2000年代~磁気ディスク用ガラス基板微少うねり サブnm0.5〜0.2nmヘッド浮上量低下による接触を防止
2010年代~高精度計測・先端光学10〜1nm0.2〜0.1nm表面化学状態まで管理
現在EUV・超精密光学サブnmサブ0.1nm原子層レベルの面制御

※数値は当時の実用要求レンジを示す代表値
※「平坦度」はグローバル、「粗さ」はRa/Rq相当のオーダー感

表1.ガラス平面研磨の要求精度年表(用途別・代表値)

建築・鏡用途:平面研磨の原点

19世紀中頃まで、ガラス平面研磨の用途は、窓ガラス、鏡といった大面積・視覚的品質重視の分野でした。
この時代の要求は、肉眼で歪みが目立たないこと、表面光沢があることでした。
平坦度はmm~100µmオーダー、表面粗さはμmオーダーが実用的な目標です。

研磨は「形状修正」というより、鋳造・成形で生じた面ムラを平均化する工程として位置づけられていました。

光学用途:平面度が性能を決める時代

19世紀後半から20世紀前半になると、望遠鏡、カメラ、測定機器の発展により、ガラス平面研磨は光学性能を規定する工程へと変化します。
要求精度は、以下のように急激に高まりました。

  • 平坦度:数µm→サブµm
  • 面精度:λオーダー(光学波長基準、λは約600nm)
  • 表面粗さ:数十nm以下

この段階で、定盤精度、圧力分布制御、研磨材粒径管理が体系的に議論され始めます。
後述する「3枚摺り合わせ法(Three-plate method)」によるオプティカルフラット(光学平面)などの干渉計測の普及もあって、平面研磨は職人技から再現性を持つ技術分野へ移行しました。

フロートガラス以降:平坦度の主戦場が変わる

1950年代、フロートガラス法の実用化により状況が一変します。
溶融ガラスを溶融スズ上に浮かべるというフロートガラス法によって、大面積かつ両面平滑な板ガラスの連続生産が可能になったのです。
建築用途では「研磨不要」の革命でした。
これにより、厚み調整、マクロな平坦化の多くは成形工程側で達成されます。

一方、研磨工程には、成形後に残る微小うねりや表面欠陥を制御する役割が求められるようになりました。
つまり、フロートは「マクロ平面」を提供するが、「機能平面」は保証しない、ここから再び研磨の役割が重要になったのです。

電子・半導体用途:ナノ精度の平面研磨

1980年代以降、以下の用途では、平面研磨に対する要求はさらに一段階上がります。

  • フラットパネルディスプレイ
  • フォトマスク
  • 磁気ディスク用ガラス基板などの電子・半導体関連


主に、以下のレベルまでが当たり前に要求されるようになりました。

  • グローバル平坦度:µm以下
  • ローカル平坦度:数十nm以下
  • 表面粗さ:nm~サブnm

1990年代、経済大国と言われた日本は、世界のTFT-LCD、PDP、FPD市場を牽引しました。
シャープを筆頭に、大型ディスプレイの量産が本格化します。
ここで初めて、ガラス基板そのものの平坦度・均一性がデバイス歩留まりを左右するようになります。

要求精度の変化は以下の内容です。

  • 大面積化(300mm→1m級)
  • 平坦度(1µm以下)
  • 表面粗さ(10nm以下)

技術的転換点は、フロートガラス後加工の最適化、大面積均一研磨、スラリー管理・パッド管理の体系化などがありました。
「研磨は局所技」から「面内均一性技術」へと変化したのです。


また、1990年代にアルミニウム基板に取って代わった磁気ディスク用ガラス基板は、2000年代に入ると垂直記憶媒体が導入されます。
さらに、記憶密度の向上を進めると共に、磁気ヘッドの浮上量は10nmオーダーまで小さくなります。
そのため、基板全体の平坦度や表面粗さの管理だけでは、基板と衝突する心配が出てきました。

そこで、これらの他に、測定波長が百~数百μm程度の微小うねり(Micro Waviness/Nano Waviness)の低減が求められました1)

このように、ガラス平面研磨の世界においても、単なる平面度、単なる表面粗さではなく、後工程に影響しない表面状態が評価軸となってきました。

先端光学・EUV用途:原子レベルの面制御

近年のEUV(Extreme Ultraviolet)光学系や精密計測用途では、平面研磨はもはや「削る工程」ではありません。
EUVは、波長13.5nmの極端紫外光を用いた最先端の露光技術で、半導体の7nm世代以降(5nm/3nmなど)のロジックデバイス製造を支える中核技術です。

要求されるのは、以下の研磨技術です。

  • サブnmレベルの粗さ
  • 極低欠陥密度
  • 表面化学状態の制御

使用されるのは、以下のような、局所除去量を設計する研磨技術です。

用途が要求精度を規定し、要求精度が研磨プロセスを規定する構造が、ここで完全に固定化されました。

研磨材はどう進化してきたのか

次に、ガラス研磨の歴史を振り返ると、その進化は「研磨材の進化」とほぼ重なっていることが分かります。
ガラス研磨がどのように発展し、その裏で研磨材がどう変わってきたのかを、技術的な視点から分かりやすいように整理しました。

初期の研磨材:酸化鉄

ガラス研磨の歴史を振り返ると、古くから使われてきたのが酸化鉄(ベンガラ)です。
比較的穏やかな研磨作用を持ち、光沢のある仕上げが得られるため、光学ガラスや装飾ガラスの仕上げ研磨に広く使用されてきました。

しかし、加工効率の面では課題があり、大量生産や高精度加工が求められるようになるにつれて、より高性能な研磨材が求められるようになります。

主役となった酸化セリウム

その後、ガラス研磨の主流となったのが酸化セリウム研磨材です2)
酸化セリウムは単なる機械的な研磨だけでなく、ガラス表面との化学反応(ケモメカニカルポリシング作用)によって効率よく材料を除去できるのが特徴です3)

この特性により、高い研磨速度、良好な表面粗さなど、光学用途に適した仕上げが実現されました。
現在でも光学レンズや液晶ガラスなど幅広い分野で使用されています。

見えない課題「潜傷」

ただし、研磨工程では常に注意すべき課題があります。
それが潜傷(サブサーフェスダメージ)です。潜傷とは、表面には見えないものの、ガラス内部に微細なクラックや損傷が残る現象です4)
潜傷が残ると、強度低下やコーティング不良、光学性能の劣化といった問題につながる可能性があります。

そのため、現在の研磨工程では、以下による潜傷の抑制が重要なテーマになっています。

  • 前工程の砥粒サイズ管理
  • 適切な研磨圧・速度の設定
  • 仕上げ研磨材の最適化

最新の研磨材と技術

近年では、さらに高精度な加工を実現するために、研磨材も進化しています。

例えば、コロイダルセリア5),6)、高純度酸化セリウムなどが開発され、以下の分野で活用されています。

  • 半導体用ガラス
  • 光学部品
  • 精密ガラス基板

これらの新しい研磨材は、高い研磨効率と低潜傷の両立を目指して設計されている点が特徴です。

以上のように、ガラス研磨の品質は、研磨条件だけでなく研磨材の選択によっても大きく変わります。
研磨材の進化は、これからの光学産業や精密加工を支える重要な技術と言えるでしょう。

3枚摺り合わせ法とオプティカルフラット― 平面創成の幾何学的原理と干渉評価 ―

最後に、精密機械加工の原点とも言える「3枚摺り合わせ法」について触れておきます。
3枚摺り合わせ法は、外部基準面を用いずに、定圧加工によって正確な平面を作りこむ方法です5)
以下では、その原理とニュートンリングによる評価方法を整理しました。

3枚摺り合わせ法の基本原理

3枚摺り合わせ法では、図1のように、同じ大きさの板を3枚(A・B・C)用意します。

図1 3面摺り合わせ法6)

次の順番にこすり合わせ、以下の作業を何度も繰り返します。

  1. AとBを摺り合わせる
  2. BとCを摺り合わせる
  3. CとAを摺り合わせる

すると、3枚の面は少しずつ形が修正され、最終的に平らな面に近づいていきます。

なぜ3枚必要なのでしょうか?
もし2枚だけの場合、次のような問題が起きるのです。

例えば、両面が同じ曲率で、片方が凸、もう一方が凹の場合、両者の密着が成立してしまうため、「平面である保証」は得られません。
しかし3枚を使うと、(3枚とも平面でない限りは)必ず密着しない組み合わせが生まれます。

その結果、凹、凸といった形状の誤差が互いに削り合わされ、面は次第に「曲がりのない状態」に近づいていき、系は曲率ゼロへ収束するのです。
これは幾何学的拘束による自己整合(自己組織化)プロセスであり、外部原器なしで基準面を生成できる点に本質があります。

このように、3枚の相互作用によって平面が作られるのが3枚摺り合わせ法の特徴です。

ニュートンリング(干渉法)による形状評価

出来上がった面の平坦さは、ニュートンリングと呼ばれる光の縞模様で確認します。
2枚のガラスを重ねて光を当てると、間にできたごく薄い空気層によって干渉が起こり、円形の縞が見えることがあります。
これがニュートンリングです。

この縞は、面の高さのわずかな違いを示しています。
例えば、代表的な干渉光源であるHe-Neレーザー(λ≈633nm)を用いると、縞1本の高さ差=λ/2=316nmになります。

つまりニュートンリングを見ることで、ナノメートルレベルのわずかな凹凸まで確認できるのです。

この3枚摺り法は、昔の光学レンズ加工で広く使われてきました。
そしてこの考え方は、現在の光学レンズ、半導体ウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板などの平面加工技術にもつながっています7)

加工と測定を繰り返しながら精度を高めていくという考え方は、現代の精密研磨技術の基本ともいえるものです。

まとめ:平面研磨は用途進化の写像である

ガラス平面研磨の歴史を振り返ると、「見た目を整える研磨」から、「光学性能を決める研磨」、さらに「電子デバイスを成立させる研磨」へと、その役割は大きく変化してきました。

平面研磨は常に、次の用途が要求する精度を、少し遅れて、しかし確実に実現する工程であり続けています。

参考文献

1)江田伸二;モバイル用途磁気ディスク用ガラス基板の加工,NEW GLASS, Vol.26, №1(2011)16.

2)塙 健三;ガラス用研磨材,NEW GLASS,Vol.27,№106(2012)21. 

3)㈱斉藤光学製作所ブログ;第6回「研磨加工のメカニズム その3

4)泉谷徹郎ら;光学ガラスの潜傷について,光学技術コンタクト,15,12(1977)37.

5)黒河周平ら;コロイダルセリア砥粒の凝集状態に着目した石英ガラス基板研磨,2017 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,(2017)9.

6)若松海斗ら;凝集コロイダルセリアを利用した石英ガラス基板研磨 ―低濃度スラリーを用いた高効率研磨-,[No198-1] 日本機械学会九州支部第72期総会講演会講演論文集,(2019)C34.

7)安永暢男ら;精密機械加工の原理,日刊工業新聞社,(2011)5.

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