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研磨加工における微粒子分散の原理と理論について徹底解説!

固体の微粒子を液体に分散したものを「固液分散系」といいますが、今日、多くの製品あるいは製造プロセスにおいて見られます。
顔料を分散させた塗料やインクなどはもちろんのこと、硫化物系や酸化物系電解質を分散させた全固体電池用スラリー、難溶性薬剤を高分散状態で懸濁し経口吸収性を向上させたナノ分散型ドラッグデリバリーシステムなど、最新の分野でも使用されています。

それでは今回は、微粒子分散の原理と理論について解説していきましょう。

河田 研治
監修者:河田 研治

株式会社斉藤光学製作所技術顧問。専門が「研磨加工」と「微粒子分散」の技術コンサルタント。1976年、東北大学工学部を卒業後にタイホー工業株式会社 中央研究所にて磁性流体や研磨加工の研究に従事。1987年、東京大学より工学博士号(機械工学)を授与。2001年から3年間、東京大学生産技術研究所の客員教授。その後10年間は、研磨材メーカーの株式会社フジミインコーポレーテッド。さらにその後10年間は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 招聘研究員だった。

研磨加工の分野においても、微粒子の分散は重要な位置を占めています。
例えばラッピングやポリシングで使用する研磨スラリーにおいて、砥粒の分散状態が悪いと凝集粒子が発生し、その影響で加工面にスクラッチが発生しやすくなるのです。

また、加工の切り屑である被加工物の微小粉についても加工液との分散性が悪いと加工面に再付着して加工能率が低下するなどの問題が生じます。
さらに、砥粒の分級工程において砥粒の分散が悪いと精密分級ができないなど、微粒子の分散が研磨加工に与える影響は非常に大きいといえます。

微粒子の分散原理とは

粉体状の微粒子から固液分散系を作る場合、安定に分散させるために必要な工程は以下の二つです。

  1. 凝集粉体を液中で個々の粒子にほぐす
  2. その後、粒子が再び凝集しないようにする

1の工程は、機械力でほぐす作業「粉砕」と、粒子に付着した空気を液体に置換する作業(これを「ぬれ」といいます)が同時に進行します。
2は凝集防止、つまり「安定化」で、粒子間の反発力と引力の問題が深く関わってきます。

この項では,以上の「粉砕」「ぬれ」「安定化」について解説しましょう。

微粒子の粉砕

個々の粒子径は充分小さいとしても、一般に粉体は乾燥凝集を起こしており、大きな二次粒子となっています。
そこで、安定して分散させるためには、この二次粒子を液体中で細かく粉砕する必要があります。

粉砕した粒子が大きければ重力により沈降しやすくなりますし、粒子が充分に小さければブラウン運動が激しくなり、重力に対抗して安定して分散されるのです。

ブラウン運動とは、微粒子が水分子の熱運動によってランダムに移動する現象のことで、粒子が小さいほど移動速度は速くなります。

水中の単粒子の場合、粒子半径が0.1μm以下ならば重力による沈降速度の20倍以上の速さでブラウン運動するため分散します。
一方、粒子半径が1μm以上の場合は、重力による沈降速度がブラウン運動を上回ってくるため沈降するのです1)

また、分散には強力な剪断力を必要とするため、目的の粒度や粘度を考慮してミルやミキサーなどの分散機の仕様を決めることも重要となります。
さらに、次項のぬれ性の良いほうが粒子間に液体が浸透しやすくなるため粉砕しやすくなるのです。

微粒子のぬれ

ぬれとは、液体が固体表面から気体を押しのける現象のことを表します。
乾燥した粉体の表面には空気が強く吸着しているため、これを液体で置換する必要があります。
いくら機械の剪断力を強くしても固/液のぬれ性が悪ければ分散しません。

ぬれ性を良くするためには固/液の化学的親和性を強くし、親和性は、両者の極性が近いものほど(=化学構造が近いものほど)大きくなるのです。

例えば、カーボンブラックのような有機顔料は油との親和性(親油性)が大きく油には良く分散します。
反対に、水との親和性(親水性)は小さいため、そのままでは水の表面に浮いてしまい分散はしません。

このように、粒子の極性に合った分散媒を選定することが第一に重要です。
固/液の極性が異なる場合は、界面活性剤などの界面活性物質の力を借りるか、粒子表面そのものを改質する必要があります。

界面活性剤の効果は、吸着による親和性増大の効果だけでなく、水などの液体の表面張力を下げて、粒子間に液体が浸透しやすくする効果もあるのです。

固体表面のぬれやすさは、液滴との接触角、あるいは粉体を液体に浸したとき発生する熱(湿潤熱)などにより推定できます。

微粒子の安定化

以上のように「粉砕」と「ぬれ」によって一次粒子化が達成できれば、最終工程は粒子の再凝集を防止する工程になります。
液体中の粒子同士はブラウン運動によって頻繁に衝突を繰り返しますが、衝突すれば必ず凝集が起こるわけではありません。
その確率は粒子間に作用する反発力と引力とのバランスに支配されます。

引力となるのはファンデルワールス力であり、反発力には電気二重層による静電反発力と、吸着層による立体障害効果があります。
これらは以下の分散理論で解説しましょう。

微粒子の分散理論

電気二重層による静電反発力

一般に、微粒子は液中で帯電し、その表面に反対の電荷を持ったイオンを引きつけるため、粒子の周囲にイオンが不均一に分布した層を形成します。
これを電気二重層といいます。
図1に電気二重層の概念図を示しました。

図1 電気二重層の概念

粒子同士が接近して不均一層が重なり合うようになると、重なり部分のイオン密度が増加し、その増加量に対応する浸透圧が反発力となり粒子は安定化します。
この現象を理論的に解明したのがDLVO理論です。

以下では、この電気二重層やゼータ電位、DLVO理論について解説します。

(1)電気二重層の構造

二つの相が接するとき、多くの場合において電子やイオンの授受により、界面に電位差が発生します。
微粒子が水などの極性溶媒に分散した系においてその電位差は大きくなり、図1に示すような電気二重層が形成されるのです。

陽子の磁気モーメントの発見などにより1943年にノーベル物理学賞を受賞したOtto Sternによれば、電気二重層の溶媒側は、以下の二つの部分からなり、電位は直線部分と双曲線部分に分かれます。

  • 粒子表面にイオンが強く吸着した固定層(Stern層)
  • その外側の拡散層

拡散層におけるイオンの分布状態は、以下のバランスの結果です。

  • 対イオン(粒子表面の電荷と反対電荷のイオン)を引きつけ、副イオン(表面電荷と同種のイオン)を反発しようとする静電力
  • これらのイオンを均一に分布させようとする熱運動

Stern層においては、粒子表面の電荷と反対電荷のイオン(対イオン)が静電引力やファンデルワールス力により強く吸着するため熱運動に打ち勝って密な層を形成しています。
ここでの電位をStern電位(ψδ)といいます。

粒子表面への対イオンの吸着により、電位は表面電位(ψ0 )からStern電位まで低下します。
しかし、低下の程度は系内の電解質濃度とともに大きくなり、とくに多原子価の対イオンの場合は電荷の反転が起こる場合もあるのです。
また、粒子間の静電反発力が及ぶ範囲(電位がψ0 /eに減衰する距離)を二重層の厚さといい、反発力の強さはこの厚さや表面電位に依存します。

(2)ゼータ電位の本質

表面電位やStern電位は実際には測定できない値です。
そこで、電気的性質を論じる場合、唯一測定できる電位としてゼータ電位を用います。

この電位は、例えば電気泳動現象における粒子の泳動速度から、あるいは電気浸透法や流動電位法などによって求められます。
ゼータ電位は、これら界面動電現象における荷電表面と液体との間のすべり面の電位であり、Stern層のほんの少し外側の位置でStern電位よりわずかに小さいといわれているのです。

帯電粒子の表面近傍の液体は高粘性の半固体状態でほとんど流動しませんが、拡散層におけるイオンの結合はゆるいためこの間ですべりが生じます。
しかし、このすべり面の場所は現在のところ明確にされていません。
仮定する電解質の種類と濃度によって異なりますが、例えば粒子表面から数オングストローム~数nm程度と推定されています。
一方、拡散層の厚さははるかに大きく100nmという推定例もあるのです2)

(3)DLVO理論

1940年頃、ロシアのDerjaguinとLandau、オランダのVerweyとOverbeekがそれぞれ独自に同じ内容の分散理論を発表しました。

その内容は、分散安定性は粒子間に働くファンデルワールス引力と静電反発力とのバランスのみにより決定されるというもので、四人の頭文字をとってDLVO理論といいます。

項目を以下の内容とした場合(1)式が成立します。

  • VT ;粒子間の全ポテンシャルエネルギー
  • VA ;ファンデルワールス力のポテンシャルエネルギー
  • VR ;静電反発力のポテンシャルエネルギー

(1) VT =VA +VR               

VA、VR 、VT ともに粒子間距離により変化し、多くの場合、図2のようなポテンシャルエネルギー曲線を示します。

図2 分散系のポテンシャルエネルギー

全ポテンシャルエネルギー曲線は、通常、図のように極大値Vmax を有し、粒子同士が接近して接触するにはこのエネルギー障壁を越えなければならないのです。
そのため、この山が高いほど凝集しにくく安定となります。

分散安定の目安は、このエネルギー障壁と粒子の熱運動エネルギーとの比較において、Vmax ≧15kT~25kT(kT;熱運動エネルギー、k;ボルツマン定数、T;絶対温度)といわれています。

エネルギー障壁が低い場合、粒子は山を越えて一次極小の谷に落ちてしまいます。
この谷には強い引力が作用しており、粒子同士は強く結合し、再び引き離すことは難しいです。
したがって、この場合は攪拌しても戻らない不可逆凝集となります。

一方、粒子の表面状態によっては、山の手前に二次極小と呼ばれる浅い谷が現れることがあります。
この谷がある程度深い場合は、ブラウン運動に打ち勝って粒子同士が弱く結合した状態です。

この位置で形成された凝集体は、三次元の網目構造をとりやすく、弱い攪拌で容易に再分散します。
したがって、二次極小における凝集は可逆凝集でありチクソトロピー現象を示します(チクソトロピーについては次回ブログをご参照ください)。

吸着層による立体障害効果

前述のようにDLVO理論は電気的な反発力のみで構築された理論です。
しかし、電気的には中性であっても安定な分散系は世の中に多く存在します。

例えば、非イオン性の界面活性剤や高分子を吸着させた粒子を無極性溶媒に分散した系などの場合がそうです。
そこで、DLVO理論に代わり、非イオン性分子の吸着による安定化の機構を説明しようとする新しい理論が数多く現れました。
これらの理論に共通した考え方は、粒子に吸着した非イオン性分子の厚い層が粒子同士の接近を立体障害的に妨げます。
言い換えれば粒子が接近したとき互いの吸着層が重ならない方向に力が作用する、という立場をとっています。

現在、二つの理論的立場があり、一つはMackorらの「エントロピー効果理論」です。
もう一つはFischerらの「浸透圧効果理論」です。

両者は、立体障害が分散安定性に寄与するメカニズムを異なる観点から説明しています。

エントロピー効果理論

エントロピー効果理論は、高分子などの吸着層の配座自由度に着目しています。
(エントロピー:熱力学で言うところの「乱れ」の尺度)

粒子表面に吸着している高分子鎖は、空間的に自由に動ける状態を好むのです。
粒子同士が接近して高分子鎖が圧縮されると、高分子の自由度(エントロピー)が減少します。
このエントロピーの減少を避けるため、粒子同士が近づくのをエネルギー的に嫌うようになるのです。
(熱力学第二法則によれば、自然界はエントロピー増大の方向へ変化します)

したがって、吸着層を持つ粒子の間には反発力が作用し、その結果、分散が安定化されます。

浸透圧効果理論

浸透圧効果理論は、吸着層の濃度勾配に着目しています。
粒子同士が接近し、吸着層が重なり合うようになると、その部分の吸着分子濃度が増大し、その結果、重なり部分の浸透圧が他の部分より大きくなるのです。
この浸透圧の差が反発力として作用します。

この作用は吸着分子と分散媒との親和性により変化し、親和性が大きいほど反発力も強く、分散は安定化します。
逆に、親和性が非常に小さい場合は引力となり凝集します。

以上、二つの理論をまとめると、以下の通りです。

  • エントロピー効果理論:「自由度を失いたくない」という統計力学的観点からの説明
  • 浸透圧効果理論:「濃度差による圧力」で粒子が押し返される現象を表している

尚、実際の分散系では両者が複合的に働いていることが多くなっています。

おわりに

微粒子分散の基本的な原理や理論について解説しました。
理論が中心の内容でしたので、多少わかりにくかったかもしれません。

次回は、実際の分散系における酸化物など種々の粒子のゼータ電位や吸着分子の効果などについて、具体的にわかりやすく説明します。

参考文献 
1)北原文雄,古澤邦夫:分散・乳化系の化学,工学図書(1979).
2)B.Jirgensons,M.E.Straumanis (訳:玉虫文一):コロイド化学,培風館(1967).

他にも以下の文献を参考にしています。
・渡辺信淳,渡辺昌,玉井康勝:表面および界面,共立出版(1973).
・小石真純,角田光雄:粉体の表面化学,日刊工業新聞社(1975).
・北原文雄,古澤邦夫:最新コロイド化学,講談社(1990).
・小石真純,釣谷泰一:分散技術入門,日刊工業新聞社(1977).
・渡辺昌:コロイド化学,共立出版(1968).
・角田光雄:微粒子の分散,砥粒加工学会誌,36,2(1992)73.
・佐藤達雄:サスペンションの物理化学的性質(Ⅰ)-分散安定性-,色材,59,11(1986)682.
・小林敏勝:今日からモノ知りシリーズ,トコトンやさしい粒子分散の本, 日刊工業新聞社(2022).

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