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GaNの基本と研磨メカニズム、一般研磨との違いを徹底解説!

今回は半導体材料であるGaNに着目して解説していきます。

GaNとは何か、という基本の部分から、GaNを研磨する原理やメカニズム、そして一般研磨との違いなど、株式会社斉藤光学製作所の技術者Dさんに詳しくお話を伺いました。
GaNを詳しく勉強したい方はぜひ読んでみてください。

Dさん
技術者:Dさん

株式会社斉藤光学製作所の技術者。
研磨加工に携わって10年以上。研磨技術についてわかりやすく伝えるために科学的な原理原則も日々勉強中。

ケンマくん
広報担当:ケンマくん

株式会社斉藤光学製作所の広報担当。
広報担当ながら技術への関心が強く、いろいろなことを突っ込んで聞いていく癖がある。

GaNとはどのようなものか?

そもそもGaNとはなんでしょうか?

ケンマくん

Dさん

主にガリウム(Ga)と窒素(N)の2つの元素からなる化合物単結晶で、日本語では“窒化ガリウム”と称されます。

Dさん

ちょっと格好良く英語読みでいうと“ガリウムナイトライド”、そのままローマ字読みで“ガン”と呼ばれることも多いです。

ガン!かっこいいですね!

ケンマくん

Dさん

GaNはワイドギャップまたはワイドバンドギャップ(WBG)半導体と呼ばれる材料群の一つで、その名の通り、幅広(ワイド)な禁制帯(バンドギャップ)を持つ材料です。

バンドギャップとはなんでしょうか?

ケンマくん

Dさん

“バンドギャップ”とは価電子帯と伝導体の間の電子が存在できない領域の幅のことを指します。

Dさん

かなりざっくり申し上げると、このバンドギャップが広いと半導体としてはとても優秀な特性を発揮してくれます。

Dさん

説明が雑だ!正しくは違う!等のお叱りは、加工屋的には専門外ということで温かい目でお許しください。
詳しくはぜひ、物理の教科書などで正確な知識を<(_ _)>

わかりました!

ケンマくん

Dさん

他にも炭化ケイ素(SiC)なんかもこれらの仲間です。

Dさん

ちなみに最近では、酸化ガリウム(Ga2O3) 、ダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN) などのもっと広いバンドギャップを持つ材料を、ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体とさらに分けて議論するケースも見られます。

Dさん

いずれにせよ、GaNはすごい半導体材料の一つだということです。

GaNがすごい半導体材料ということはよくわかりました!

ケンマくん

Dさん

さて、半導体材料というと電気を扱う際に使われるものというイメージが強いですが、GaNはそれ以外にも我々の生活にとって重要な特性を持っています。

それはずばり“発光”です。

Dさん

この特性を語る上で、避けて通れないのは、なんといっても赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生の3名によるノーベル物理学賞受賞です。
日本が世界に誇る、ものすごく素晴らしいご研究の成果です。

それはずばり“発光”です。

みなさん有名な方々ですよね!

ケンマくん

Dさん

今は皆さんのご家庭も含めて、蛍光灯に代わってLEDが広く普及していますが、照明として使うには基本的に白色である必要がありますよね。
もしオフィスの照明が赤だったら目がチカチカして仕事になりません。

それはずばり“発光”です。

Dさん

この白色を得るためには青色の高輝度(明るい)発光が不可欠なのですが、この高輝度青色発光を実現している材料がGaNであり、これをなし得たのがノーベル賞を受賞された3名のご研究です。

本当に素晴らしい研究です!

ケンマくん

Dさん

もともとGaNは高品質かつ大きいサイズを作るのが非常に難しい材料なのですが、偉大な研究者の成果によって、実は現在の皆さんの頭上にはたくさんのGaNが光を放っているんです。

おかげですごく便利に快適に暮らせています!

ケンマくん

GaNが注目されている背景とは?

近年GaNが注目されているようですが、その背景はなんでしょうか?

ケンマくん

Dさん

注目されている理由はたくさんあるのですが、非常に簡単にいうと、GaNを電力変換・制御向けの半導体基板として使うことで、 “省エネルギー化”が実現できるのです。

Dさん

先にお話したLEDも省エネルギーな照明として採用が進んだわけですが、GaNの材料ポテンシャルはそこにとどまりません(いやあすごい!) 。

GaNにはまだ他にもすごいところが?

ケンマくん

Dさん

いうまでもなく現代の我々の生活って電気がないと成り立たないですよね。
普通に生活していても、大量に電気を使っています。

Dさん

この夏も暑かったので、我が家でもエアコンが大活躍してくれましたが、電気代の請求書を見て涙目になりました…。
材料を削るのは得意ですが、生活費用を削るのは苦手です…。

・・・・・

ケンマくん

Dさん

さて、研磨屋の悲哀は置いておいて、話を戻しましょう。

…お願いします。

ケンマくん

Dさん

電気は発電されて我々の手元で消費されるまで、何度も変換を繰り返すことで、使える状態になっています。
こういった変換や制御を担っているのがパワー半導体とかパワーデバイスと呼ばれるものです。

Dさん

ここで問題になるのは変換の際にはロス(電力損失)が発生してしまうという点です。
つまり変換を行うたびに電力エネルギーはどんどん減少してしまい、我々が使えない分が増えてしまうのです。

電力損失は聞いたことがあります!

ケンマくん

Dさん

せっかく発電したのに使えずに捨てられるエネルギーがあるってとても残念ですよね。
もちろん、この分野の技術も日進月歩で、設計の最適化などでいかに損失を少なくするかという取り組みはどんどん進んでいます。

Dさん

しかし、限界はあり、限界の決め手の一つが材料物性です。
現在、パワー半導体には主にシリコン(Si)が使われています。
Siは超高品質のとても素晴らしい材料で、ザ・半導体というくらい、我々の生活にはなくてはならない材料です。

シリコンは私もよく知っています。

ケンマくん

Dさん

ただし、高電圧・大電流を扱う領域や高周波を扱う領域、高温領域などでは、物性上、少々実力が発揮しにくいところがあります。

なかなか難しいんですね。

ケンマくん

Dさん

それに対して、GaNなどのWBG半導体はそれらの領域で大きなアドバンテージがあり、Siに変えてGaNをパワー半導体基板材料として使うことで、大幅な電力効率の向上つまり省エネルギー化が見込まれるのです。

それはすごい!

ケンマくん

Dさん

パワー半導体の性能を示す指標はいくつかあるのですが、その一つに“バリガ性能指数”というのがあります。

バリガ性能指数とは?

ケンマくん

Dさん

これは、絶縁破壊電界強度、電子移動度、熱伝導率などの物性より算出される総合的指標で、Siを1として半導体の性能を定量化したものです。

Dさん

この指標においてGaNはなんと900以上、つまり材料の潜在能力として、Siの900倍以上の性能が得られる可能性があるということです。
まさに桁違いですよね。

全然違いますね!

ケンマくん

Dさん

ちなみにSiは何でもできて聞き分けの良い優等生で、GaNは多少扱いにくいものの、尖った才能を持つ未完の天才みたいなイメージです(あくまでも個人の主観です。個人的には技術屋として後者に少し憧れます。)

Dさん

電力エネルギーの重要性は社会の進歩とともに益々増加していくことは間違いないと思います。
そのような中で、GaNは電気自動車(EV)やEV充電器、データセンターなどさまざまな分野での大活躍が期待される夢の材料といえるでしょう。

まさに未来の材料ですね!

ケンマくん

GaNを研磨する原理とメカニズムについて

では次に、GaNを研磨する原理・メカニズムを教えてください

ケンマくん

Dさん

機械研磨(機械的ポリシング)に関していえば、GaNの研磨も基本的には他の材料と同様の原理です(機械的ポリシングについてはこちらの記事「ポリシング加工の原理とは?研磨加工のメカニズムについて徹底解説」で詳しく解説しておりますので、ぜひご参考ください) 。

読んでみます!

ケンマくん

Dさん

しかし、GaNは非常に硬度の高い材料ですので、砥粒として使用できるものは限られます(そもそも硬度として材料<砥粒でないと機械的ポリシングは難しいためです。) 。

となると、何を砥粒の材料にするのが良いでしょうか?

ケンマくん

Dさん

最も一般的に用いられる砥粒はダイヤモンドになるかと思います。
ダイヤモンドは非常に高価な砥粒ですので、あまり多用したくないのが本音ですが、こればかりは仕方ないんですよね…。

確かに高価な材料になりますね。

ケンマくん

Dさん

一方でCMPの方はというと、同様にワイドバンドギャップ半導体であるSiCと似通った原理です(後述しますが、結晶の面方位によって研磨方法が異なるため、ここではGa面についてお話させて頂きます。) 。

お願いします!

ケンマくん

Dさん

まず、研磨スラリー中に添加された酸化剤によって、表面を酸化させることで軟質な改質層を形成させ、さらにその層を比較的軟質な砥粒で除去するというものです。

Dさん

特に最近では、高い酸化作用を有する過マンガン酸カリウムを含んだ研磨スラリーが広く用いられるようになってきており、一昔前と比べるとCMPの効率は飛躍的に向上しています。

そうなんですね!すごい!

ケンマくん

Dさん

研磨は非常に古くからの技術ですが、いまだに進歩を続けるすごい技術でもあるなと本当に感じます。
このような酸化剤を援用したCMPは、今やGaN、SiCの表面仕上げに欠かせないものとなっています。

Dさん

また、他方ではこの“酸化”をキーワードに、光や電気化学反応、プラズマなど、さまざまなエネルギーを援用した加工の研究も進んでおり、加工にとって明るい未来が見えます。
皆様感謝です。

本当に感謝ですね!

ケンマくん

GaNの研磨が難しいと言われる理由とは

GaNの研磨は難しいものと聞いています。
一般的な研磨と比較して、なぜ難しいのでしょうか?

ケンマくん

第一の難しさ:硬度が高い

Dさん

まず、難しさの第一要因は、一部を除いたワイドバンドギャップ半導体全般にいえることですが、非常に硬く、化学的な安定性にも優れているという点です。

先ほどの「硬度が高い」という内容ですね?

ケンマくん

Dさん

そうです。この特性は材料を“使う”際には非常に優れた特性ですが、“加工する”という側に立った場合、間違いなく加工屋泣かせの特性です。

具体的にはどういったことでしょうか?

ケンマくん

Dさん

まず加工がなかなか終わらない⇒やっと終わったと思ったら表面に意図しないスクラッチが入っていて再度研磨し直さなければならない⇒終わらないといった地獄のフローと隣り合わせです。

それは地獄です…。

ケンマくん

第二の難しさ:極性の問題

Dさん

第二は極性です。
結晶とは、原子がある一定の広範な規模で規則正しく整列しているものを指し、結晶ごとにそれぞれ構造が異なるのはご承知の通りです。

はい。知っています。

ケンマくん

Dさん

GaNはウルツ鉱構造という構造をとるのですが、こいつが厄介です。
ちょっとイメージしにくいかもしれませんが、GaNの塊から(0001)という結晶方位面と平行に基板を切り出した場合、一面はGa原子が最表面に出た状態、反対側の面はN原子が最表面に出た状態となります。

Dさん

つまり、基板の表と裏で加工特性が全く異なるのです。

それは厄介ですね。

ケンマくん

Dさん

ちなみに一般的には前者の面をGa面、後者をN面と呼びます。
Ga面は先ほどお話したように、硬く、安定で中々研磨が進みません。
それに対してN面は化学的に脆弱で、研磨の進行が速い上に、アルカリなどの薬品によって侵されてしまいます。

Dさん

したがって、表と裏で同じプロセスを採用することができず、それぞれに適した条件で加工する必要があります。

Ga面、N面ともに弱点があるんですね。

ケンマくん

第三の難しさ:結晶品質

Dさん

そして第三は結晶品質です。
先ほどもGaNは大口径の高品質基板を創るのが難しいと触れさせて頂きました。

Dさん

現在、多くの研究者の方たちが結晶品質の向上等に関するご研究を進めていらっしゃいます。
材料分野の研究者の方々って本当にすごく、いつも尊敬の念を持ってお話させて頂いております。

本当にすごいです!

ケンマくん

Dさん

しかしながら、現状はまだ途上の部分もあり、材料にはまだ多くの欠陥などが含まれています。
当然、基板内の欠陥の多寡や欠陥のある場所とない場所で加工特性は変わります。
つまり同じ仕上げをしても仕上がるもの(場所)や仕上がらないもの(場所)があるということです。

Dさん

加工屋としては、材料の状態も踏まえて最適な仕上げを選択するというのが大事なのですが、この辺りのコントロールも非常に難しい点の一つです。

まだまだ課題が多いんだと感じます。

ケンマくん

GaNの研磨・加工の流れ

GaNはどのような流れで研磨・加工するのでしょうか?

ケンマくん

Dさん

GaNの研磨加工プロセスはまだ完成形に至っていません。
したがって、現在は各社各様に設計されたプロセスによって加工がなされていると思います。

Dさん

いずれ、パワー半導体向けとして求められる表面品位はある程度定まっていますので、最終品位を担保した上で、どのように生産効率を向上させるかが鍵でしょう。

今後の流れが楽しみです!

ケンマくん

Dさん

弊社では、表面仕上げ工程を多段構成にすることで、段階的に品位と効率のバランスを取りながら加工を行っています。
社外秘の部分もありますが、怒られない範囲で弊社のプロセスの一例をご紹介させて頂きます。

お願いします!

ケンマくん

Dさん

まず、砥石を用いた研削によって、形状やウェハの厚さおよびそのばらつきを整えます。
ここで重要なのは、どの程度の砥石番手を選択するかです。

砥石番手による違いはなんですか?

ケンマくん

Dさん

当然、粗い番手を選択すると良好な加工性は得られますが、加工後の基板に形成されるダメージ(加工変質層)深さは深くなり、後の工程の負担が増えます。

Dさん

逆に細かい番手を選択すると、加工変質層深さは抑えられますが、細かすぎるとそもそも削れなかったり、表面に意図しないむしれが発生してしまったりします。

Dさん

この選択はまさにノウハウの塊です。

本当に難しそうです…。

ケンマくん

Dさん

研削にて形状が整った後は段階的に表面ダメージを低減していき、最終的には以前紹介したCMPによって加工変質層のない表面に仕上げます。

Dさん

ここで、最終CMPの研磨効率(単位時間当たりの研磨除去量)はせいぜい数百nm / h程度ですので、最終CMPに至る前の中間工程で、ダメージ深さをどこまで高効率に低減できるかという点が生産効率に直結する要素になります。

Dさん

我々はこれまでさまざまな研磨スラリーや研磨パッドを検討させて頂いており、現状は最も効率の良い多段処理構成に行き着いております!!

もちろん、ここで止まらず、まだまだ進化させていく所存ですので、どうぞご期待ください。

楽しみにしています!!

ケンマくん

斉藤光学におけるGaN研磨の実例

斉藤光学でどのようなGaN研磨の実例があるか教えてください。

ケンマくん

Dさん

現在、GaNはさまざまな育成方法が検討されています。
育成方法が変われば結晶の状態は変わりますので、当然加工性も変わってきます。
同じGaNのはずなのに加工してみたら“なんじゃこりゃ”となることも珍しくありません。

そうなんですね!

ケンマくん

Dさん

個別の案件や実例につきましては秘密保持の関係で申し上げることはできませんが、弊社ではさまざまな育成方法によって製造された基板の加工経験があります。
この“さまざまなGaNを触ったことがある”というのが我々の最も大きな強みだと思っています。

とても頼りになります!

ケンマくん

最後に

GaNの研磨を依頼しようか迷っている方へメッセージをお願いします!

ケンマくん

Dさん

GaNは非常に優れた特性を持ち、大きな期待が寄せられている材料です。

おそらく近い将来、さまざまな研究の成果が積み重ねられ、豊かな社会を支えるキーマテリアルの一つになると思います。

Dさん

しかし、現状はまだ材料、加工ともに途上の部分があり、どうしても各個体の状態に寄り添った加工条件のフィッティングが必要な段階です。

弊社ではこれまでさまざまなGaNを加工させて頂いた経験と実績があり、絶え間なくプロセスのブラッシュアップを継続しています。

Dさん

GaNの加工、表面創成にお困りの際はぜひお気軽にご相談頂けますと幸いです。

今日はありがとうございました!

ケンマくん

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